古びた洋館の一室。埃を被った歪んだ鏡が、そこに置かれていた。引っ越してきたばかりの私は、その鏡に奇妙な魅力を感じていた。無機質な金属のフレームは、冷たく光を反射し、鏡面に映る像はどこか現実離れしていた。孤独な生活を送る私にとって、それは唯一の話し相手、いや、むしろ観察者だったのかもしれない。
ある夜、鏡を見ていると、微かに機械音が聞こえた。それはまるで、古びた機械が軋むような音。鏡の奥から聞こえてくるようで、背筋がゾッとした。最初は気のせいだと思っていたが、毎晩のように音が聞こえるようになった。
鏡に映る自分の顔は、日に日に歪んでいくように見えた。目の下のクマは濃くなり、口角は下がり、表情は硬直している。鏡の中の私は、私ではない誰か、いや、むしろ、かつての私だったのかもしれない。過去の喪失感が、鏡を通して具現化されているような気がした。
ある日、鏡の中に人影が見えた。それは、かつてこの洋館に住んでいたという女性だった。彼女は鏡の中で泣き叫び、助けを求めているようだった。彼女の声は、無機質な機械音と混ざり合い、私の耳に直接響いてきた。
私は恐怖に駆られ、鏡を覆い隠した。しかし、機械音は止まらなかった。むしろ、それは私の心の中に響き渡り、私を蝕んでいった。私は鏡に囚われてしまったのだ。
私は鏡の前に立ち、鏡の中の自分を見つめた。歪んだ鏡に映る私の顔は、もはや私のものではなかった。それは、過去の怨念に囚われた、哀れな亡霊の顔だった。
鏡は、過去の感情を映し出す。そして、時に、人を飲み込んでしまう。