あらすじ
静かな山村にひっそりと佇む古井戸。村人たちは、その井戸にまつわる古い言い伝えを恐れていた。「井戸の底には、少女の魂が囚われている。決して覗いてはならない」。写真家を目指す青年・悠斗は、村を訪れ、その古井戸の存在を知る。好奇心に駆られた悠斗は、タブーを犯し、井戸を覗き込んでしまう。その日から、悠斗の周りで不可解な現象が起こり始める。井戸から聞こえる少女のすすり泣き、夢に現れる血まみれの姿、そして、徐々に失われていく記憶。悠斗は、井戸の呪いに囚われてしまったのだ。彼は、村に伝わる儀式によって呪いを解こうとするが、事態は悪化の一途を辿る。果たして、悠斗は井戸の呪いから逃れることができるのか。そして、井戸に囚われた少女の魂は、安らかに眠ることができるのだろうか。恐怖と狂気が渦巻く、和風ホラー。
キーワード
怪談、ホラー、和風、古井戸、少女、呪い、因習、村、祟り、記憶喪失、心理的恐怖
山深い村への道のりは、舗装されているとはいえ、心細いほどに人気がなかった。都心から遥か離れたその場所は、まるで時間が止まっているかのようだった。私は、写真家としての腕を磨くため、そして、何かインスピレーションを得るために、この村を選んだのだ。村の名前は伏せておこう。だが、その風景は、私の記憶に深く刻まれている。
宿に荷物を置くなり、私は村の散策に出かけた。古びた木造の家々、苔むした石垣、そして、どこか懐かしい土の匂い。全てが、私を別世界へと誘うかのようだった。そんな中、私の目に留まったのは、村の中心にある古びた井戸だった。井戸は、朽ちかけた木製の柵で囲まれ、周囲には雑草が生い茂っていた。しかし、その存在感は、他の何よりも際立っていた。
「あれは、古井戸だよ。近寄らない方がいい」
背後から声をかけられ、私は振り返った。そこに立っていたのは、村の老人の一人だった。皺だらけの顔、くぼんだ目、そして、何かを恐れているかのような表情。私は、老人に尋ねた。
「なぜですか？何か言い伝えでもあるんですか？」
老人は、しばらくの間、口を噤んでいた。そして、重い口を開いた。
「あの井戸には、少女の魂が囚われているんだ。昔、村の娘が、誤って井戸に落ちて亡くなった。それ以来、井戸からは少女のすすり泣きが聞こえるようになり、井戸を覗き込んだ者は、不幸に見舞われると言われているんだ」
私は、老人の話を半信半疑で聞いていた。だが、老人の真剣な眼差しに、嘘はないと感じた。私は、老人に礼を言い、その場を後にした。しかし、老人の言葉は、私の心に深く刻まれた。
その夜、私は宿で眠りについた。しかし、眠りについた途端、奇妙な夢を見た。夢の中で、私は古井戸の前に立っていた。井戸の中からは、少女のすすり泣きが聞こえてくる。私は、恐る恐る井戸を覗き込んだ。すると、井戸の底には、血まみれの少女がいた。少女は、私を見つめ、何かを訴えているようだった。私は、恐怖に駆られ、目を覚ました。心臓が激しく鼓動していた。
夢のせいだろうか、私は古井戸のことが頭から離れなくなった。老人の言葉が、何度も頭の中で繰り返される。私は、好奇心に抗えなかった。そして、翌日、私は再び古井戸へと向かった。
