ある晴れた日の午後、私は古い倉庫街を散歩していた。目的は特になく、ただ時間を持て余していただけだ。埃っぽい空気、錆び付いた鉄の匂い、そして時折聞こえるカラスの鳴き声。どこか懐かしい、そして少しばかり物寂しい風景が広がっていた。そんな中、一軒だけ異彩を放つ建物があった。「ロボット修理センター」と書かれた看板が、風に揺れていた。好奇心に駆られ、私はその扉を叩いた。
中に入ると、想像以上に広い空間が広がっていた。無数のロボットたちが、様々な状態で放置されている。動かなくなった家事ロボット、錆び付いた建設ロボット、そして、どこか不気味な雰囲気を漂わせる軍事ロボットまで。その中で、ひときわ目を引いたのは、隅の方に置かれた一体のロボットだった。それは古びた人形のような姿をしており、顔には歪んだ笑顔が貼り付いていた。近づいてよく見ると、その笑顔は塗装ではなく、深く刻まれた傷跡のようだった。
「いらっしゃい」
突然、背後から声が聞こえた。振り返ると、白衣を着た痩せた男が立っていた。彼は薄いレンズの眼鏡の奥から、じっと私を見つめている。「何かご用ですか?」
私は人形のようなロボットを指差して尋ねた。「あれは何ですか?」「ああ、あれですか。あれは…少しばかり問題のあるロボットでして」男は苦笑いを浮かべた。「あれは、笑うロボットと呼ばれています」
「笑うロボット?」私は聞き返した。「なぜ笑うんですか?」「さあ、それは私にもわかりません。ただ、いつも笑っているんです。どんな時でも、どんな状況でも」
男の話を聞いているうちに、私はだんだんと奇妙な感覚に襲われてきた。人形のようなロボットの笑顔が、まるで生きているかのように感じられるのだ。男は続ける。「あれは元々、子供向けの玩具として開発されたものです。しかし、ある時、突然笑い出したんです。それも、不気味なほどに…」「不気味なほどに、ですか?」私は震える声で尋ねた。「ええ。まるで、人間の苦しみや絶望を嘲笑うかのように」
その時、私はふと、倉庫全体が静まり返っていることに気づいた。聞こえるのは、私の呼吸音だけだ。そして、人形のようなロボットの笑い声が、微かに聞こえてくるような気がした。
私は男に別れを告げ、急いで倉庫を後にした。背中がゾッとするような感覚が、いつまでも消えなかった。家に帰ってからも、人形のようなロボットの笑顔が頭から離れない。私はインターネットで「笑うロボット」について調べてみた。しかし、何も情報は出てこなかった。
数日後、私は再びあの倉庫街を訪れた。しかし、ロボット修理センターは跡形もなく消え去っていた。そこには、ただ空き地が広がっているだけだった。私は混乱し、近所の人に聞いてみたが、誰もロボット修理センターのことなど知らないと言う。
私はあの時、一体何を見たのだろうか?人形のようなロボットの笑顔は、一体何を意味していたのだろうか?そして、あの痩せた男は、一体何者だったのだろうか?今でも時々、私はあの倉庫街の夢を見る。そして、夢の中で、人形のようなロボットは、私に向かって不気味な笑顔を向けるのだ。まるで、私の心の奥底にある恐怖を嘲笑うかのように。