導入:あの世のアップデート
最近、巷で妙なアプリが流行っている。「スマホ戒名」。故人のスマホにインストールし、簡単な情報を入力するだけで、AIが自動で戒名を生成してくれるという優れものだ。葬儀屋泣かせ、お坊さん失業確実、なんて冗談半分に囁かれている。私も好奇心でダウンロードしてみた。
故・愛犬の戒名
最初に試したのは、数年前に亡くなった愛犬のポチ。享年15歳。アプリを起動し、「犬種:柴犬」「性格:人懐っこい」「好物:ジャーキー」といった情報を入力。AIは数秒後、なんともそれらしい戒名を提示してきた。「爆裂甘噛居士」。…うん、まあ、ポチっぽい。
止まらない好奇心
最初は笑って済ませていたのだが、何故だろう、妙な高揚感が湧いてきた。人間の戒名も生成できるらしい。試しに、亡くなった祖父の情報を入力してみた。「趣味:将棋」「性格:頑固」「口癖:ばかもん」と。結果は「盤上無限駒之介」。…悪くない。むしろ、ちょっと感動してしまった。
アプリの暴走
調子に乗って、会社の同僚の名前を入力してみた。もちろん、亡くなった人ではない。ただの悪ふざけだ。「性格:ケチ」「特技:人の揚げ足取り」「弱点:上司に弱い」。AIは、一瞬の沈黙の後、恐ろしい戒名を吐き出した。「強欲算段餓鬼道」。画面が暗転し、警告文が表示された。「故人以外の戒名生成は禁じられています。罰則:魂の再利用」。
締め:魂の再利用
背筋が凍り付いた。アプリを即アンインストールしたが、時すでに遅し。翌日、その同僚は会社に来なかった。連絡も取れない。そして、私のスマホには、新たな通知が届いていた。「強欲算段餓鬼道様の魂を、新しい肉体にインストールしました。快適なセカンドライフをお楽しみください」。…犬用のロボット掃除機の購入履歴が残っていた。