導入:深夜のオフィス。蛍光灯のちらつきさえも友達さ。
真夜中のオフィス。キーボードを叩く音だけが、シンと静まり返った空間に響き渡る。隣の部署はとっくに灯りが消え、残っているのは私を含めて数人だけ。ああ、今日も終電コース確定か…。コーヒーでも買って目を覚ますか、と私は席を立った。お目当ては、いつもの場所に鎮座する、年代物の自動販売機。
この自販機、見た目は古くてボロボロなんだけど、なぜかラインナップが妙に渋いんだよね。缶コーヒーの種類も、どこか懐かしいものばかり。しかも、たまに「当たり」が出たりする。当たると、もう一本好きなジュースが無料で出てくるんだ。こういう、ちょっとしたサプライズが、疲れ切った私には嬉しい。
小銭を握りしめ、自販機の前へ。お目当てのコーヒーのボタンを押し、コインを投入。ガコン、と鈍い音を立てて缶コーヒーが出てきた。さて、飲むか、と思ったその時…。
異音:自販機が歌い出した!?
自販機から、聞いたことのない音が聞こえてきたんだ。「…う、うう…」まるで、うめき声のような、かすれた歌声のような、なんとも不気味な音。最初は、機械の故障かと思った。長年使い古された自販機だし、いつ壊れてもおかしくない。
しかし、その音は、次第に言葉を紡ぎ始めた。「…カエ…シテ…ワタシノ…ユメ…」
え? 何? 私の聞き間違い? 疲れているせい? 頭の中は疑問符でいっぱい。でも、その声は確かに、自販機の中から聞こえてくる。しかも、「夢を返して」って、一体何の夢を返せばいいんだ!?
背筋がゾッとした。これは、ただの故障じゃない。何か、得体の知れないものが、この自販機に宿っているのかもしれない…。
夢を集める自販機:その正体は…
次の日、私は会社の先輩に、昨夜の出来事を話した。「自販機が喋った」なんて言ったら、頭がおかしいと思われるかもしれない。でも、言わずにはいられなかった。その先輩は、意外にも真剣な顔で私の話を聞いてくれた。
「その自販機、もしかしたら『夢喰い自販機』かもしれんな」
夢喰い自販機? 何それ? まるで都市伝説じゃないか。
「昔から、古い自販機には精霊が宿ることがあるって言われててな。特に、人の念がこもった場所にある自販機は、夢をエネルギーに変えて生きているらしいんだ。その自販機も、もしかしたら、残業続きの社員たちの夢を吸い取って、生きながらえているのかもな」
先輩の話を聞いて、私はさらにゾッとした。夢を吸い取られるって、一体どんな気分なんだろう。自分の夢が、誰かの飲み物のエネルギーになっているなんて、想像するだけで恐ろしい。
当たりが出ない理由:夢の代償
そういえば、あの自販機で「当たり」が出た時、いつも少しだけ気分が悪くなるような気がしていた。まるで、何か大切なものを失ったような、空虚な気持ちになるんだ。もしかしたら、あれは夢の代償だったのかもしれない。
私は、その日から、あの自販機を使うのをやめた。代わりに、少し遠くのコンビニまでコーヒーを買いに行くことにした。遠回りだけど、自分の夢を守るためには、それくらいの努力は惜しまない。
そして、数週間後、あの自販機は、ついに撤去された。老朽化が原因らしい。でも、私は知っている。あれは、夢を食べすぎて、お腹がいっぱいになったんだ。
締め:夢は、タダじゃ売れないんだよ
あの自販機が撤去された後、私の部署の残業時間が、少しだけ減ったような気がする。みんな、少しだけ元気になったような気もする。もしかしたら、夢喰い自販機がいなくなったことで、みんなの夢が、少しだけ取り戻されたのかもしれない。
…でも、たまに思うんだ。あの自販機は、今どこで、誰の夢を食べているんだろうか、ってね。世の中、うまい話には裏がある。夢は、タダじゃ売れないんだよ。肝に銘じておきな、って、夢喰い自販機が囁いている気がするんだ。ガハハ!