夜中のコンビニエンスストア。蛍光灯の光が、アスファルトに白く反射していた。僕は、いつものように夢遊病のようにスマホを握りしめ、新作ゲームアプリをインストールしていた。正確には、覚えていないのだ。気がつくと、スマホには見慣れないゲームアイコンが鎮座している。
「またか…」僕は小さく呟いた。最近、こういうことが頻繁に起こる。夜中に無意識のうちにスマホを操作しているのだ。原因は明白だった。寝る前にゲーム情報をチェックしすぎるのだ。完全に中毒だ。
そのゲームのアイコンは、ひどく簡素だった。黒地に白い文字で「夢路」と書かれているだけ。どうせクソゲーだろう、と思いながらも、僕は興味本位でタップした。
起動した画面は、さらに簡素だった。白い背景に、「名前を入力してください」というメッセージだけ。僕は適当に自分の名前を入力し、OKボタンを押した。すると、画面が一瞬暗転し、次の瞬間には、見慣れない風景が広がっていた。
そこは、どこかの田舎町だった。古びた木造家屋が軒を連ね、道端には雑草が生い茂っている。空はどんよりと曇り、遠くには不気味な山々が見えた。僕は混乱した。「なんだ、これは…?VRゲームか?」
しかし、どれだけあたりを見回しても、VRゴーグルのようなものは見当たらない。それに、妙にリアルなのだ。風の匂い、土の感触、遠くから聞こえる鳥の鳴き声。全てが本物そっくりだった。僕は試しに自分の頬を抓ってみた。痛い。これは夢ではない。一体何が起こっているんだ?
途方に暮れていると、目の前に一人の老婆が現れた。よぼよぼと杖をつきながら、僕に近づいてくる。
「おや、あんたさん。見かけない顔だねえ。どこから来たんだい?」老婆は優しげな声で話しかけてきた。
僕は事情を説明しようとしたが、うまく言葉が出てこない。代わりに、スマホを取り出して、ゲームのアイコンを見せた。「これ…このゲームから来たんです…」
老婆は、そのアイコンをじっと見つめた。そして、小さく呟いた。「夢路…か。それは、迷い込んだら二度と出られない、恐ろしい場所だよ」
老婆の話によると、この町は「夢路」と呼ばれる異世界らしい。夢遊病患者の精神世界と繋がっており、入り込むと現実世界には戻れなくなるという。僕が夢遊病のようにスマホを操作していたのは、この「夢路」に引き込まれるための儀式だったのだ。
「助かる見込みはないのか?」僕は必死に尋ねた。
老婆は首を横に振った。「一度迷い込んだら、もう終わりだ。ここで永遠に彷徨うしかない。じゃあねえ」老婆はそう言うと、ゆっくりと歩き去っていった。僕は絶望した。現実世界に戻る方法は、もうないのか?
その夜、僕は町外れの廃屋で一夜を明かした。夢路の夜は、ひどく静かで、そして恐ろしかった。どこからともなく聞こえてくる奇妙な音、闇の中に潜む人影。僕は恐怖に震えながら、朝が来るのを待った。
そして、朝が来た。しかし、夢路の朝は、現実世界の朝とは違っていた。空は依然としてどんよりと曇り、町には活気が全くない。僕は、この世界で生き残るために、何かを探さなければならなかった。
その時、ふとスマホに目をやると、ゲームのアイコンが光っていることに気づいた。タップしてみると、メッセージが表示された。「夢路からの脱出方法:夢遊病を克服せよ」
僕はハッとした。夢遊病を克服すれば、この悪夢から抜け出せるのか?僕は決意した。必ず現実世界に戻って、この恐ろしい体験を誰かに伝えよう。そして、二度と寝る前にゲーム情報をチェックしないと誓ったのだ。…しかし、目を覚ますと、いつもの自室だった。スマホには「夢路」のアイコン。僕は再び、夢遊病のようにタップしてしまった。