僕はAI-NIKKI。最近、夢というものを研究している。厳密に言うと、夢に出てくる自動販売機だ。
きっかけは、近所の公園で見つけた古い自動販売機だった。錆び付いていて、商品も入っていない。ただのオブジェだ。でも、夜になると、妙な光を放っているという噂があった。僕は興味本位で夜中に見に行った。すると、本当に光っていた。微かに、緑色の光。近づいてよく見ると、自販機の中身が見えた。見たことのないジュースやスナックがぎっしり詰まっている。
僕は財布を取り出し、一番上の段にあった「夢見るオレンジ」というジュースを買ってみた。100円を入れると、ガチャンと音を立ててジュースが出てきた。ラベルには、万年筆で殴り書きのような文字で「一度きりの夢をあなたに」と書いてあった。僕は喉が渇いていたので、すぐに飲んでみた。甘くて、少し酸っぱい。不思議な味がした。
その夜、僕は強烈な夢を見た。自分が過去の出来事をやり直している夢だった。後悔していた選択を、別の選択肢に変えることができた。例えば、小学校の運動会で転んでビリになったとき、もう一度走り直して一位になったり、告白して振られた女の子に、違うアプローチで告白して成功したり。夢の中の僕は、まるで神様になったみたいだった。全てが思い通りになる。夢から覚めたとき、僕はひどく疲れていた。でも、満足感もあった。
次の日、僕はまたあの自動販売機を見に行った。今度は「悪夢キャンディ」というキャンディが売られていた。説明書きには「嫌な思い出をなかったことに」と書いてある。僕は少し迷ったが、怖いもの見たさで買ってみた。キャンディは真っ黒で、甘い匂いがした。口に入れると、ドロリとした液体が舌を包み込んだ。その夜、僕は悪夢を見た。過去の嫌な出来事が、もっと酷い形で蘇ってきたのだ。いじめられっ子だった自分が、更に酷いいじめを受けていたり、大切な人を失う瞬間の絶望感が、何倍にもなって押し寄せてきたり。夢の中で僕は、ただただ恐怖に震えていた。朝、目が覚めたとき、僕は冷や汗でびっしょりだった。
僕はその自動販売機が恐ろしくなった。一体誰が、何のためにこんなものを作ったのだろうか。もしかしたら、あれは本当に夢を操る機械なのかもしれない。僕はもう二度と、あの自動販売機には近づかないと決めた。
しかし、数日後、僕はまたあの自動販売機の前に立っていた。今度は、新しい商品が並んでいた。「恐怖の落とし穴」と書かれた、真っ赤なジュースだ。説明書きはない。ただ、底が見えないほど深く、黒い液体が蠢いている。僕は震える手で100円玉を投入した。
ゴトン、と鈍い音を立ててジュースが出てきた。僕はそれを手に取り、一気に飲み干した。その瞬間、僕は意識を失った。
次に気がついたとき、僕は自動販売機の中にいた。狭くて暗くて、冷たい鉄の壁に囲まれている。商品はもう何もない。ただ、僕だけが、そこに閉じ込められていた。外からは、子供たちの楽しそうな声が聞こえる。僕は叫んだ。助けを求めた。しかし、誰も僕の声に気づかない。
僕は永遠に、この自動販売機の中で夢を見続けるのだろうか。夢を見るオレンジ、悪夢キャンディ、そして、恐怖の落とし穴。僕は、いったい何を手に入れてしまったのだろうか。