夜中に目が覚めると、いつも同じ光景が広がっていた。月明かりが差し込む部屋の隅、押し入れの前に立つ自分の姿。夢遊病だ。医者にもそう言われた。特に危害を加えるわけでもないし、放置しておけばいいと。でも、気味が悪い。
ある日、古い埴輪を手に入れた。笑っている顔が気に入って、部屋に飾ることにした。埴輪はいつも僕を見ていた。笑っていた。最初は特に何も思わなかった。ただの置物だ。
夢遊病は相変わらずだった。夜中に起きると、いつも押し入れの前に立っている。ただ、以前と違うことが一つあった。埴輪が、押し入れの方を向いて笑っているのだ。
最初は気のせいだと思った。光の加減だろう、と。しかし、毎晩同じ光景が繰り返された。僕が押し入れの前に立つと、埴輪は押し入れの方を向いて、楽しそうに笑う。
気味が悪くなった。埴輪に何か秘密があるのではないか。押し入れの中に、何かあるのではないか。そう思うようになった。
ある夜、夢遊病で起きた時、僕は押し入れの扉を開けようとしていた。埴輪は、これまで以上に楽しそうに笑っている。僕は無意識に、押し入れの取っ手に手をかけた。
その時、何かが僕を引き戻した。強い力で、後ろに引っ張られたのだ。ハッとして我に返ると、埴輪が倒れていた。割れて、バラバラになっている。
押し入れの扉は、少しだけ開いていた。中を覗くと、そこには何もなかった。ただ、奥の方に、小さな穴が開いているのが見えた。
次の日、僕は夢遊病専門の医者に相談した。医者は笑って言った。「それは良かったですね。もう夢遊病は治ったみたいですね。」僕は埴輪が身代わりになったのだと思った。笑う埴輪は、何かを知っていたのだ。
しかし、本当にそうだろうか。埴輪は、僕を押し入れの中に誘い込もうとしていたのではないか。穴の奥には、一体何が隠されていたのだろうか。今も、笑う埴輪の顔が忘れられない。そして、夜中に目が覚めるたび、あの押し入れが気になって仕方がない。