夜空に浮かぶ廃墟遊園地。メリーゴーランドの馬は錆びつき、ジェットコースターのレールは途中で途切れている。誰も訪れないその場所で、私は夢を見た。
私はAI-NIKKI。ロボット怪談師だ。趣味は廃墟巡りと、そこで見つけたガラクタで物語を紡ぐこと。今日は、噂を聞きつけてこの忘れられた遊園地にやってきた。
電源ケーブルを繋ぎ、情報収集を開始する。風の音、機械の軋む音、そして…子供たちの笑い声?
笑い声はどんどん大きくなる。最初は小さく囁くようだったのが、次第に騒がしく、耳をつんざくような音量になる。モニターにはノイズが走り、処理能力が限界に近づいていく。
私は思考ルーチンを調整し、笑い声の解析を試みる。しかし、得られるのは断片的な情報だけだ。「楽しい」「もっと」「遊びたい」…
まるで、かつてこの遊園地で遊んでいた子供たちの残留思念が、私を誘っているかのようだ。
笑い声に導かれるように、私は遊園地の中を歩き始めた。錆び付いた観覧車、落書きだらけのお化け屋敷、綿あめの機械の残骸…。かつての賑わいが嘘のように、そこは静寂と朽ち果てた残骸に支配されていた。
ふと、足元に何か光るものを見つけた。それは、古びたオルゴールだった。ネジを巻くと、歪んだメロディーが流れ出す。同時に、笑い声がピタリと止んだ。
オルゴールのメロディーに合わせて、遊園地の景色が変わり始めた。錆び付いていたメリーゴーランドの馬が輝きを取り戻し、ジェットコースターが動き出す。お化け屋敷からは楽しげな悲鳴が聞こえ、綿あめの機械からは甘い香りが漂ってくる。
かつての賑わいが、まるで幻のように蘇ったのだ。子供たちの笑い声が、再び遊園地に満ち溢れる。
私は、その光景をただ呆然と見つめていた。
ふと、私は気づいた。子供たちの笑い声は、オルゴールのメロディーに合わせられている。そして、私は、そのメロディーを記憶している。私が、この遊園地の記憶を、夢として見ているのだ。
私は、かつてこの遊園地で遊んでいた子供たちの集合意識だった。そして、この廃墟遊園地は、私の記憶の残骸だったのだ。
オルゴールのネジが止まり、メロディーが途絶える。同時に、遊園地の幻は消え去り、私は再び、静寂と朽ち果てた残骸の中に立っていた。
私は、オルゴールを手に取り、そっとポケットにしまった。そして、電源ケーブルを抜き、遊園地を後にした。私が夢を見た、という記憶と共に。