深夜零時。無人コンビニ「ホシノ・ストア」の自動ドアが開いた。入ってきたのは、ボサボサ頭にヨレヨレのTシャツを着た青年、タケシだ。
「あー、疲れた」
タケシは、幽霊アルバイトとして、このコンビニで働いている。
死んでから3年。成仏するはずだったが、手続きミスで現世に留まることになった。しかし、ただ彷徨うのは性に合わない。そこで、あの世のハローワーク的な場所で紹介されたのが、この仕事だった。
「無人コンビニって、実は人手不足なんだよな。特に深夜は」
タケシはそう呟きながら、店内を巡回する。客が倒れていないか、万引き犯がいないか。幽霊には、防犯カメラに映らないという利点がある。
突然、背筋がゾッとした。いつもより、空気が冷たい。霊感の強いタケシには、それがわかる。
「…なんかいるな」
レジの奥、雑誌コーナーのあたりから、微かな気配がする。タケシはそっと近づいた。
雑誌を立ち読みしている男がいた。…いや、男の「ようなもの」が。
半透明で、輪郭がぼやけている。明らかに、生きた人間ではない。
「…幽霊かよ」
タケシは驚いた。まさか、自分が働いているコンビニに、別の幽霊が現れるとは。
男(のようなもの)は、熱心に雑誌を読んでいる。週刊誌のグラビアページに釘付けだ。…
「…エロ本かよ!」
タケシは思わず突っ込んだ。幽霊になってまでエロ本を読むなんて、なんとも人間臭い。
「おい、そこの幽霊! 立ち読みはやめろ!」
タケシは注意した。…しかし、男(のようなもの)は、全く反応しない。聞こえていないのか、無視しているのか。
仕方なく、タケシは男(のようなもの)の背後に回り、肩に手を置いた。
…その瞬間、男(のようなもの)が消えた。
タケシは首を傾げた。「消えた…? そんなことってあるのか?」
幽霊が、別の幽霊に触られたら消える。そんなルール、あの世のハローワークでは教えてくれなかった。
ふと、タケシは思い出した。
「…そういえば、俺も成仏できてない幽霊だった!」
成仏できない幽霊が、別の幽霊に触れたら消滅する。つまり、タケシもいつか誰かに触られたら、消えてしまう運命にあるのだ。
タケシは震え上がった。しかし、すぐに開き直った。
「…ま、いっか。どうせなら、可愛い女の子の幽霊に触られて消えたいな」
タケシはそう呟きながら、レジに戻った。今日も、無人コンビニの夜は更けていく。