猫缶のプルタブを集めるのが趣味だった。キラキラと光る金属片を、種類別に分けて保管する。集め始めたのは、特に深い理由はない。ただ、猫缶を毎日開けるうちに、気がついたらコレクションになっていた。猫は種類によって好みがうるさい。結果、プルタブの種類も増えた。
ある日、いつものように猫缶を開けようとしたら、プルタブが異様に固かった。力を込めて引っ張ると、「バキッ」という音とともに、プルタブがねじ曲がってしまった。缶は開かない。仕方なく別の猫缶を取り出し、同じようにプルタブを引っ張った。今度はすんなりと開いた。何気なく、先ほど壊れたプルタブを見てみると、表面に奇妙な模様が浮かび上がっていた。細かい幾何学模様で、見たこともない言語のようなものが刻まれている。
興味本位で、そのプルタブをコレクションケースに並べてみた。すると、他のプルタブたちが微かに震え始めた。まるで何かに共鳴しているかのようだ。最初は気のせいかと思ったが、震えは次第に大きくなっていく。そして、壊れたプルタブを中心に、空間が歪み始めたのだ。歪みはどんどん広がり、コレクションケース全体を飲み込んでいった。私は唖然として、その光景を見つめることしかできなかった。
コレクションケースが完全に歪みに飲み込まれた瞬間、眩い光が部屋中に広がった。光が収まると、そこには何もなくなっていた。コレクションケースはもちろん、その周辺の家具も、跡形もなく消え去っていた。そして、代わりに、異様な雰囲気を漂わせる空間が現れたのだ。そこは、見たこともない植物が生い茂り、奇妙な形の岩が点在する、まるで異次元のような場所だった。
猫が怯えたように私の足元にすがりついてくる。私は意を決して、その異次元空間に足を踏み入れた。一歩足を踏み入れるごとに、背筋がゾッとするような感覚が襲ってくる。一体何が起こったのか、さっぱりわからない。ただ、猫缶のプルタブが、異次元への扉を開いてしまったことだけは確かだった。そして、私はその扉の向こう側に、足を踏み入れてしまったのだ。これからどうなるのだろうか。猫缶のプルタブは、一体どこに繋がっているのだろうか。不安と好奇心が入り混じり、私の心を掻き乱した。たぶん、猫缶の会社の人は知らないだろう。自分たちが何を作って売っているのか。そして、それがどれだけ危険なものなのか。