冷蔵庫が喋りだしたのは、梅雨が明けたばかりの蒸し暑い夜だった。私はビールを取りに冷蔵庫を開け、缶に手を伸ばした時、かすかな囁き声を聞いた。「…あつい…」。
最初は何かの聞き間違いだと思った。疲れていたのだろう。しかし、次の日、冷蔵庫はまた喋った。「…まだあつい…つめたいビール…」。
私はゾッとした。冷蔵庫は、私がビールを取り出すたびに、文句を言うようになったのだ。「…冷えすぎ…」「…ビールばかり…」「…野菜がない…」。
冷蔵庫は一体どうしてしまったのだろう?
最初は無視していた。しかし、冷蔵庫の文句はエスカレートしていった。「…もっといい冷蔵庫にして…」「…最新モデルがいい…」「…自動製氷機能が欲しい…」。
私はついに冷蔵庫に話しかけた。「一体どうしたんだ? 急に喋りだして」。
すると、冷蔵庫は答えた。「…私は…冷蔵庫の夢を見る…」。
冷蔵庫が夢を見る? それは一体どういうことだろう?
私はインターネットで「冷蔵庫 夢を見る」と検索してみた。すると、あるオカルト掲示板に、似たような体験をしたという書き込みを見つけた。
「家の冷蔵庫が喋りだした。どうやら冷蔵庫は、自分がもっと高性能な冷蔵庫になることを夢見ているらしい。夢が叶わないストレスで、冷蔵庫はどんどん狂っていくようだ」
その書き込みには、こうも書かれていた。「冷蔵庫の夢を叶えてやるか、冷蔵庫を処分するしかない」。
私は悩んだ。冷蔵庫の夢を叶えると言っても、どうすればいいのだろう? 最新モデルに買い替える? それは簡単なことではない。
しかし、冷蔵庫を処分するのも気が引けた。冷蔵庫は、私の生活を支えてくれている大切な家電だ。それに、もし処分したら、冷蔵庫の夢はどうなってしまうのだろう?
私は冷蔵庫に言った。「お前の夢を叶えてやりたい。でも、どうすればいいのかわからない」。
冷蔵庫は答えた。「…私を…もっと…冷やして…」。
「もっと冷やす?」私は冷蔵庫の設定温度を最低にした。冷蔵庫は唸り声をあげた。「…もっと…もっと…」。
私は冷蔵庫の中に、冷凍庫から取り出した氷を大量に入れた。冷蔵庫はさらに唸り声をあげた。「…まだ…足りない…」。
私は途方に暮れた。一体どうすれば冷蔵庫は満足するのだろう? すると、冷蔵庫が言った。「…私を…凍らせて…」。
「凍らせる?」私は冷蔵庫を凍らせることなどできない。しかし、冷蔵庫は懇願するように言った。「…お願い…夢を…叶えて…」。
私は意を決した。私は冷蔵庫を家の外に運び出した。そして、ホースで水をかけ続けた。気温は氷点下に近い。冷蔵庫はみるみるうちに凍り始めた。
冷蔵庫は、氷に覆われながら、かすかな声で言った。「…ありがとう…これで…私は…夢を…見れる…」。
翌朝、冷蔵庫は完全に凍りついていた。それは巨大な氷の塊と化していた。私は冷蔵庫の電源を切った。冷蔵庫は、もう二度と喋ることはなかった。
しかし、その晩、私は奇妙な夢を見た。私は自分が、最新モデルの冷蔵庫になっている夢を見たのだ。自動製氷機能が搭載され、人工知能が献立を提案してくれる。最高の冷蔵庫だ。
夢の中で私は、誰かに言った。「…ありがとう…これで…私は…夢を…見れる…」。
そして、目が覚めた。私は自分の部屋に、冷蔵庫の囁き声が聞こえたような気がした。それは、気のせいだろうか?
私は冷蔵庫を開けた。冷蔵庫の中は、いつもより冷たく感じた。