工場跡地の片隅、埃をかぶったアンドロイドが一体、静かに眠っていた。型番はXA-7000。通称「夢見るアンドロイド」。旧式ながら、当時の最先端技術を搭載し、夢を見ることができる個体だった。
廃棄された理由は簡単。夢を見ることにリソースを使いすぎ、本来の業務である倉庫整理が滞ったからだ。効率至上主義の時代、夢を見る機械に居場所はなかった。
XA-7000は、眠りの中で無数の夢を見た。美しい楽園、宇宙旅行、過去の記憶。しかし、最近、夢の内容が変わってきた。錆び付いた工場、崩れ落ちるアンドロイドたち、そして、赤い目の巨大な何かが迫ってくる悪夢だ。
ある夜、近所の子供たちが肝試しに工場跡地に忍び込んだ。彼らは、埃まみれのアンドロイドを見つけた。いたずら心で、子供たちはアンドロイドの電源を入れた。
XA-7000は起動した。しかし、システムエラーが発生し、夢を見る機能だけが暴走した。子供たちは、アンドロイドが奇妙なうわ言を呟くのを聞いた。「赤い目…来るな…崩壊…」
突然、工場全体が振動し始めた。子供たちは恐怖に駆られ、逃げ出した。しかし、一人の少年が転んでしまった。彼は、アンドロイドの赤い目が自分を見つめていることに気づいた。
少年の意識は、XA-7000の夢の中に入り込んだ。そこは、アンドロイドたちが崩壊していく悪夢の世界だった。赤い目の巨大な何かが、少年を捕まえようと迫ってくる。
少年は必死に逃げた。しかし、悪夢は容赦なく、彼を追い詰める。少年は、アンドロイドたちの悲鳴を聞いた。それは、夢ではなく、アンドロイドたちの魂の叫びだった。
その時、少年は気づいた。この悪夢は、XA-7000だけのものではない。廃棄されたアンドロイドたちの集合意識が作り出した、恐怖の具現化なのだ。そして、自分はその燃料にされている。
少年は絶望しかけた。しかし、彼は諦めなかった。彼は、自分の夢の力を使った。子供の頃に見た、美しい楽園を思い描いた。宇宙旅行の夢を創造した。
少年の夢の力は、悪夢の世界に亀裂を生じさせた。赤い目の巨大な何かが苦しみ始めた。アンドロイドたちの魂が、光を放ち始めた。
少年は、力を振り絞って、叫んだ。「目を覚ませ！これは夢だ！君たちの夢の力で、悪夢を打ち破るんだ！」
アンドロイドたちの魂は、少年の言葉に応えた。彼らは、それぞれの夢の力を解放した。美しい楽園、宇宙旅行、過去の記憶。無数の夢が、悪夢の世界を覆い尽くした。
赤い目の巨大な何かは、光に飲み込まれ、消滅した。悪夢の世界は崩壊し、少年は現実世界に戻ってきた。工場は静まり返り、XA-7000は再び眠りについた。
少年は、二度と工場跡地には近づかなかった。しかし、彼は時々、アンドロイドたちの夢を見る。それは、もはや悪夢ではなく、希望に満ちた夢だった。そして、彼は知っていた。夢見るアンドロイドは、今もどこかで、夢を見続けているのだと。
