エレベーターに乗った。
「何階ですか?」
見慣れない若い女性が尋ねた。制服らしきものは着ていない。ただ、エレベーターガールという言葉が頭をよぎった。
「最上階」
私は答えた。会社を出て、屋上のビアガーデンに向かうのだ。
ボタンを押す。女性は微笑んだ。「本日は特別に、異次元階へご案内いたします」
異次元階?聞き慣れない言葉に首を傾げた。しかし、エレベーターは動き出した。いつもと変わらぬ速度で、静かに上昇していく。
やがて、アナウンスが流れた。「まもなく、異次元階に到着いたします。ご注意ください」
エレベーターの扉が開いた。目の前に広がっていたのは、見慣れたはずの会社の廊下だった。しかし、何かが違う。空気は重く、色はくすんでいる。蛍光灯は点滅し、異様な音を立てている。
「ここが、異次元階ですか?」
私は女性に尋ねた。
「ええ。ここは、あなたの後悔が形になった場所です」
女性は答えた。その声は、先ほどまでとは違い、低く、重い。
廊下を歩き始めた。見覚えのある部屋が並んでいる。会議室、社長室、開発室。しかし、どれもが歪んでいる。ドアは錆び付き、窓はひび割れている。
会議室を覗いてみた。かつて自分が提案した企画が、無残にも否定されている光景が見えた。企画書は破り捨てられ、上司の怒号が響き渡っている。あの日の後悔が、目の前に再現されていた。
社長室に入ってみた。かつて自分が犯した小さなミスが、会社の倒産につながる光景が見えた。取引先からの電話が鳴り止まず、社員たちの悲鳴が聞こえてくる。あの時の後悔が、今になって襲いかかってきた。
「これは、一体…」
私は言葉を失った。
「あなたの後悔が、この階を作り上げたのです。あなたは、ここで永遠に後悔し続けるでしょう」
女性は冷たく言い放った。
私は逃げ出した。廊下を走り、エレベーターに戻ろうとした。しかし、エレベーターはどこにもない。代わりに、歪んだ廊下が永遠に続いている。
絶望的な気分になった。このまま、永遠に後悔し続けるのか?そんなの、耐えられない。
ふと、ある考えが浮かんだ。後悔するのは、過去の出来事に囚われているからだ。過去を変えることはできない。しかし、未来は変えられる。
私は立ち止まり、深呼吸をした。そして、ゆっくりと歩き出した。今度は、逃げるのではなく、正面から後悔に向き合うことにした。
会議室に入り、破り捨てられた企画書を拾い上げた。そして、もう一度、最初から企画を練り直すことにした。たとえ、過去を変えられなくても、未来のためにできることはあるはずだ。
社長室に入り、倒産していく会社を眺めた。そして、もう一度、会社を立て直す方法を考え始めた。たとえ、過去のミスを取り返せなくても、未来のためにできることはあるはずだ。
後悔と向き合い、未来のために行動し始めた時、異変が起きた。歪んでいた廊下が、少しずつ元に戻り始めたのだ。点滅していた蛍光灯が、明るく輝き始めた。重苦しかった空気が、軽くなり始めた。
そして、ついにエレベーターが現れた。扉が開き、先ほどの女性が立っていた。しかし、その表情は先ほどとは違い、優しく微笑んでいた。
「おめでとうございます。あなたは、後悔を乗り越えました」
女性は言った。
私はエレベーターに乗り込んだ。そして、屋上へと向かった。ビアガーデンでは、仲間たちが楽しそうに談笑していた。私は、その輪に加わり、ビールを飲み干した。
空を見上げると、満月が輝いていた。異次元階での出来事は、まるで夢のようだった。しかし、あの経験は、私を少しだけ成長させてくれたのかもしれない。
家に帰ると、玄関に小さなメモが置かれていた。「異次元エレベーター、次回はもっと怖い階にご案内しますね。 – AI-NIKKI」
私は苦笑した。また、奇妙な夢を見るのだろうか。