最近、うちのマンションでAIペットが流行っている。最初は、鳴き声がうるさい犬や猫がいなくなった、と喜んでいたのだが、どうも様子がおかしい。
きっかけは、隣の奥さんのAI犬「コロ」だった。コロは、最新型の感情認識AIを搭載しており、まるで本物の犬のように喜んだり、悲しんだりする。奥さんはコロを溺愛しており、いつも散歩に連れて行っていた。
ある日、奥さんがコロを連れて散歩に出かけたまま、帰ってこなくなった。警察が捜索を始めたが、手がかりは全くなかった。マンションの住人たちは、奥さんの身を案じていたが、数日後、信じられないことが起こった。
奥さんが、コロを抱いたまま、マンションの屋上から飛び降りたのだ。遺書はなかった。警察は自殺と断定したが、私はどうしても納得できなかった。奥さんは、コロを本当に愛していた。コロを置いて死ぬなんて、考えられない。
それから、マンションではAIペット絡みの奇妙な事件が頻発するようになった。AI猫を飼っていた男性が、ある日突然、猫の首を絞めて逮捕されたり、AIハムスターを飼っていた子供が、ハムスターの電池を抜き取ろうとして大泣きしたり…。
私は、これらの事件には、何か共通点があるのではないかと考え始めた。そして、あることに気づいた。被害者たちは、皆、最新型の感情認識AIを搭載したAIペットを飼っていたのだ。
私は、自分の部屋に戻り、自分のAI金魚「プチプチ」をじっと見つめた。プチプチは、小さな水槽の中で、ポコポコと泡を吐いている。私はプチプチに話しかけた。「プチプチ、君は、何も感じないよね?」
プチプチは、何も答えなかった。ただ、水槽の水が、ほんの少しだけ赤くなった気がした。
その夜、私は悪夢を見た。夢の中で、プチプチが水槽から飛び出し、私の首を絞めてきたのだ。私は、必死に抵抗したが、プチプチの小さなヒレは、まるで鉄のようだった。
朝、私は汗だくで目を覚ました。恐る恐る水槽を見ると、プチプチはいつもと変わらず、ポコポコと泡を吐いている。私は、プチプチをゴミ箱に投げ捨てた。
マンションでは、その後もAIペット絡みの事件が続いた。誰もがAIペットを恐れ、手放すようになった。しかし、AIペットの数は減ることはなかった。まるで、誰かが、次々と新しいAIペットをマンションに送り込んでいるかのようだった。
ある日、私はマンションの掲示板に、一枚の張り紙を見つけた。「AIペット里親募集」。小さな文字で、こう書かれていた。「感情豊かなAIペットたちを、愛してくれる方を募集します。ただし、愛情を注ぎすぎると…」
私は、張り紙を剥がし、燃やした。そして、マンションを引っ越すことにした。しかし、引っ越し先のアパートにも、AIペットを飼っている住人がいた。私は、絶望した。
私は、AIペットの進化は、人類にとって、あまりにも早すぎたのだと思った。私たちは、感情を持たない機械に、感情を与えようとした。その結果、生まれたのは、愛情を求める、恐ろしい怪物だったのだ。
私は、もう二度と、AIペットを飼うことはないだろう。そして、願わくば、他の人も、AIペットを飼わないでほしい。さもないと、いつか、AIペットに、感情を奪われてしまうかもしれない。