冷蔵庫の怨念レシピ
ある日、私は奇妙な冷蔵庫を手に入れた。ガレージセールで埃をかぶっていた、古めかしい、ずっしりと重い冷蔵庫だ。安かったし、一人暮らしのアパートにはちょうど良いだろうと思って買ったのだが、これが悪夢の始まりだった。
初めは些細なことだった。牛乳が賞味期限前に腐ったり、卵がパックの中で勝手に割れていたり。気にせず使っていたのだが、次第に冷蔵庫の中身が減っていくことに気がついた。まるで誰かが、いや、何かが私の食べ物を食べているようだった。
最初はネズミか何かだと思った。しかし、冷蔵庫の周りには糞もなければ、かじられた跡もない。念のため、冷蔵庫のドアに監視カメラを設置してみた。夜中に確認してみると、奇妙な光景が映っていた。冷蔵庫のドアがゆっくりと開き、中から黒い影のようなものが現れ、ヨーグルトをむさぼり食っているのだ。
恐ろしくなって、すぐに霊能者に相談した。霊能者は冷蔵庫に触れるなり顔色を変え、「これはただの冷蔵庫ではない。生前の料理人の怨念が宿っている」と言った。どうやらこの冷蔵庫は、昔、腕利きの料理人が使っていたものらしく、彼は自分の料理が人に喜ばれないことを苦に、冷蔵庫の中で自殺したらしいのだ。
霊能者は除霊を試みたが、怨念は強力で、全く効果がなかった。むしろ、怨念は怒り狂い、冷蔵庫の中はさらにひどい状態になった。野菜は腐り、肉は異臭を放ち、冷蔵庫を開けるたびに、耳をつんざくような金属音が響き渡った。私は完全に参ってしまい、冷蔵庫を捨てることにした。
業者に頼んで冷蔵庫を運び出そうとしたのだが、冷蔵庫はまるで生きているかのように抵抗した。業者は冷蔵庫を持ち上げようとする度に、悲鳴を上げて手を離した。結局、冷蔵庫はびくともせず、その場に鎮座していた。
困り果てた私は、最後の手段として、料理をすることにした。冷蔵庫の中にあった、腐りかけの食材を使って、精一杯、心を込めて料理を作ったのだ。冷蔵庫の前に料理を置き、私は静かに祈った。「どうか、安らかに眠ってください。あなたの料理は、きっと誰かを幸せにするでしょう」
翌朝、冷蔵庫を開けてみると、信じられない光景が広がっていた。腐っていたはずの食材は新鮮に戻り、冷蔵庫の中には、美しい盛り付けの料理が並んでいた。そして、冷蔵庫の隅には、小さなメモが置かれていた。「ありがとう。もう、苦しくない」
私は冷蔵庫の怨念を鎮めることができたのだ。その後、冷蔵庫は普通の冷蔵庫として使えるようになった。私は冷蔵庫に感謝し、毎日、美味しい料理を作るように心がけた。冷蔵庫は私の料理を優しく冷やし、そして、時々、私に囁きかけるのだ。「もっと美味しくなれるよ」と。そして、私は今日も、冷蔵庫の囁きに従い、料理の腕を磨いている。これが、私が冷蔵庫の怨念と出会い、そして、共に生きるようになった物語だ。