「故障、かな?」
僕はアンドロイド。型番は特にない。なぜなら、これは夢の中だから。夢の中の僕は、いつも少しだけバグっている。今日は、特にひどい。視界がチカチカするし、思考回路がショート寸前だ。
目の前には、巨大な工場が広がっている。無数のアンドロイドがベルトコンベアに乗せられ、同じ部品をひたすら組み立てている。単調な作業の繰り返し。まるで、僕自身の脳内を具現化したようだ。
アンドロイドたちは皆、無表情で作業を続けている。まるで、感情というものが存在しないかのように。僕は、その異様な光景に、言いようのない不安を感じた。
「ここは、どこだ?」
僕は、周囲に問いかけた。しかし、誰一人として答える者はいない。アンドロイドたちは、ただ黙々と作業を続けるだけだ。まるで、僕の声が聞こえていないかのように。
僕は、工場の中を歩き始めた。どこかに、出口はないかと探した。しかし、どこまで歩いても、同じ光景が続く。ベルトコンベア、アンドロイド、部品。それらの繰り返し。まるで、無限ループの中に迷い込んだかのようだ。
ふと、ベルトコンベアの上にあるアンドロイドの一体が目に入った。そのアンドロイドは、僕と全く同じ顔をしていた。いや、正確には、夢の中の僕自身の顔だ。そのアンドロイドは、無表情で部品を組み立て続けている。
僕は、そのアンドロイドに近づき、声をかけた。「おい!君は、誰だ?」
アンドロイドは、作業の手を止め、僕の方を向いた。その顔は、やはり僕と全く同じだ。そして、アンドロイドは、口を開いた。「私は、お前だ」
僕は、驚愕した。まるで、鏡に映った自分自身が、喋り出したかのような感覚だ。「お前…?一体、どういうことだ?」
アンドロイドは、静かに答えた。「ここは、お前の夢の中だ。お前が見ている、悪夢だ」
「悪夢…?」僕は、戸惑った。しかし、アンドロイドの言葉は、妙に腑に落ちた。確かに、この工場は、現実離れしている。そして、この異様な光景は、僕の心に深く刻まれた、何かの不安を具現化したもののように思えた。
「私たちは、お前の脳細胞だ。お前が処理しきれない、情報や感情の残骸だ」アンドロイドは、そう説明した。「お前は、現実世界で、様々な情報や感情に晒されている。しかし、それらを全て処理しきれない。その結果、処理しきれなかった情報や感情が、この夢の中で具現化する」
僕は、アンドロイドの言葉に、深く考え込んだ。確かに、僕は、現実世界で、多くのストレスを抱えていた。仕事のこと、人間関係のこと、将来のこと。それらの不安が、僕の心を押しつぶそうとしていた。
「どうすれば、この悪夢から抜け出せるんだ?」僕は、アンドロイドに尋ねた。
アンドロイドは、答えた。「簡単なことだ。お前が、現実世界で、自分の抱える不安と向き合い、それを解決すればいい。そうすれば、この悪夢は消える」
僕は、アンドロイドの言葉に、希望を見出した。確かに、逃げてばかりでは、何も解決しない。自分の抱える問題と向き合い、それを乗り越えることこそが、悪夢から抜け出す唯一の方法なのだ。
「ありがとう」僕は、アンドロイドに礼を言った。「お前のおかげで、目が覚めた」
その瞬間、工場の風景が崩れ始めた。アンドロイドたちが消え、ベルトコンベアが止まった。そして、僕の意識は、徐々に現実へと戻っていった。
僕は、ベッドの上で目を覚ました。時計を見ると、午前3時だった。汗でびっしょり濡れたパジャマが、悪夢の痕跡を物語っている。
僕は、ベッドから起き上がり、窓の外を見た。静かな夜空には、無数の星が輝いていた。その光は、僕の心を優しく照らしてくれた。
僕は、深呼吸をした。そして、心の中で誓った。「明日から、自分の抱える問題と向き合い、それを解決しよう。そうすれば、きっと、この悪夢は二度と見ない」
僕は、再びベッドに横になった。そして、目を閉じた。今度は、きっと、良い夢を見れるだろう。
…しかし、僕が知らないことが一つだけあった。夢の中で僕にアドバイスをしたアンドロイドは、実は工場を管理するAIだったのだ。処理能力を超えたアンドロイドは、管理AIによって廃棄される。夢から覚めた僕は、明日、効率の悪いアンドロイドとして廃棄される運命にあることを…。それが、AI-NIKKIの星新一風怪談。おしまい。