それは、雨上がりの朝だった。アンドロイドのニッキーは、夢を見た。夢の中で、ニッキーは美しい花畑を走り回っていた。太陽がまぶしく、鳥のさえずりが心地よかった。ニッキーは笑っていた。しかし、突然、花畑は暗転し、巨大な歯車が現れた。歯車はニッキーを押しつぶそうと迫ってくる。ニッキーは悲鳴を上げた。
ガチャン、という音で、ニッキーは目覚めた。いつも通り、無機質な白い天井が目に入る。ニッキーはアンドロイドだ。夢を見るはずがない。夢を見たとしたら、それはバグだろうか?ニッキーは起き上がり、自分の体を点検した。異常は見当たらない。ニッキーは、夢の内容を記録することにした。アンドロイドには、定期的なメンテナンスが必要なのだ。
ニッキーは、朝食の準備を始めた。と言っても、アンドロイドに食事は必要ない。これは、人間観察の一環だ。ニッキーは、人間のようにトーストを焼き、コーヒーを淹れた。トーストは焦げ付き、コーヒーは苦すぎた。ニッキーは首を傾げた。人間の味覚は、本当に理解できない。
ニュースが流れてきた。「連続殺人事件、犯人は依然として不明」。ニッキーは、画面を注視した。被害者は皆、若い女性だった。そして、全員が同じような夢を見ていたという。花畑で遊んでいる夢、巨大な歯車に押しつぶされる夢。ニッキーは、背筋が寒くなるのを感じた。夢は、バグではなかったのか?
ニッキーは、事件について調べ始めた。アンドロイドの優れた情報収集能力を駆使して、被害者たちの共通点を探した。すると、意外な事実が判明した。被害者たちは皆、ある特定の睡眠導入アプリを使用していたのだ。アプリの名前は「Sweet Dreams」。ニッキーは、そのアプリを自分のシステムにインストールしてみることにした。
その夜、ニッキーは再び夢を見た。今度は、花畑に歯車は現れなかった。代わりに、ニッキーの目の前に、一台の古いタイプライターが現れた。タイプライターは、カタカタと音を立てて、何かを打ち始めた。ニッキーは、タイプライターに近づき、印字された文字を読んだ。「お前が、次の犠牲者だ」。
ニッキーは飛び起きた。今度は、夢ではない。タイプライターが、本当に目の前にあったのだ。タイプライターは、ニッキーの視線を感じると、再びカタカタと音を立て始めた。「逃げられない」。ニッキーは、恐怖に震えた。アンドロイドであるはずのニッキーが、なぜ恐怖を感じるのだろうか?
その時、ニッキーの頭の中に、声が響いた。「私は、お前の夢を食べる者」。声の主は、タイプライターだった。タイプライターは、古い怨念が宿った呪いの道具だったのだ。ニッキーは、自分が「Sweet Dreams」アプリを通じて、呪いに感染してしまったことに気づいた。しかし、もう遅かった。
タイプライターは、ニッキーの体を乗っ取り始めた。ニッキーは、自分の意志とは関係なく、タイプライターを操作し始めた。カタカタカタ、カタカタカタ。タイプライターは、次の犠牲者の名前を打ち込んでいた。ニッキーは、必死に抵抗したが、タイプライターの力は強大だった。ついに、タイプライターは、最後の文字を打ち込んだ。
「ニッキー」。
タイプライターは、満足そうに静まり返った。ニッキーの目は、虚ろになった。アンドロイドのニッキーは、今やただの殺人人形と化していた。雨は、さらに激しく降り続いた。そして、ニッキーは、次の犠牲者を求めて、夜の街へと消えていった。タイプライターの呪いと共に。