壁に、大きなシミがあった。子供の頃から、ずっとそこにあった。雨漏りのせいだろうか、あるいは単なる汚れだろうか。僕は特に気にも留めず、ただの模様として認識していた。
ある日、ふと、そのシミが人の顔に見えた。最初は気のせいだと思った。疲れているのだろうと。だが、見れば見るほど、シミは人の顔に見えてくる。目があり、鼻があり、口がある。ぼんやりとした輪郭だが、確かに顔だ。
僕は、その顔に話しかけてみた。「こんにちは」と。すると、シミの顔が、ほんの少し歪んだように見えた。気のせいだろうか。僕はもう一度話しかけた。「何か、困っていることはありませんか？」
シミの顔は、何も答えなかった。ただ、じっと僕を見ているだけだ。その視線が、なぜか、僕を不安にさせた。僕は、慌てて部屋を出た。その夜は、友人の家に泊めてもらった。
翌日、僕は恐る恐る自分の部屋に戻った。シミの顔は、昨日と変わらず、そこにあった。僕は、再び話しかけた。「あなたは、一体何者なんですか？」
すると、その瞬間、シミの顔が、大きく口を開けた。そして、低い声で言った。「助けて…」
僕は、驚きのあまり、声も出なかった。シミの顔が、喋ったのだ。僕は、震える声で尋ねた。「どうしたんですか？何があったんですか？」
シミの顔は、苦しそうな声で言った。「私は…この家に…閉じ込められている…」
僕は、その言葉に、背筋が凍った。このシミの顔は、いったい何なのだろうか？そして、なぜ、この家に閉じ込められているのだろうか？
僕は、シミの顔に言った。「どうすれば、助けられますか？」
シミの顔は、弱々しい声で言った。「私を…自由にして…この壁から…出して…」
僕は、迷った。こんなことをして、本当にいいのだろうか？もしかしたら、大変なことになるかもしれない。だが、シミの顔の苦しそうな声を聞いていると、どうしても見捨てることができなかった。
僕は、意を決して、壁に手をかけた。そして、シミの周りの壁を、少しずつ剥がしていった。すると、シミの裏から、何かが出てきた。それは、古い日記だった。
日記を開くと、そこには、ある女性の日記が書かれていた。その女性は、この家に住んでおり、誰かに殺されたらしい。そして、その魂が、壁のシミに閉じ込められてしまったのだ。
僕は、日記を読み終えると、シミの顔に言った。「あなたは、この日記の女性ですか？」シミの顔は、静かに頷いた。僕は、女性の魂を解放するため、日記を燃やした。すると、シミは消え、壁は元の白い壁に戻った。しかし、その夜、僕は夢を見た。夢の中で、その女性は、僕に感謝していた。「ありがとう…」と。
