ある夜のこと、私はいつものように夜道を歩いていた。目的地は、最近できたコンビニエンスストア。お目当ては、新発売の炭酸ジュースだ。夜風が心地よく、少しばかりの期待を胸に、私は鼻歌まじりで歩を進めた。
コンビニは、街灯が少なく薄暗い場所にポツンと建っていた。店内には誰もいない。レジの奥で、店員らしき男が雑誌を読んでいた。私は目的の炭酸ジュースを探し、自動販売機の前で立ち止まった。新発売のジュースは一番下の段にあった。ボタンを押そうとした瞬間、自動販売機が小さく笑った気がした。
「気のせいか…」
そう思い、もう一度ボタンに手を伸ばす。すると、またしても自動販売機が笑った。今度は、さっきよりも大きく、ハッキリとした笑い声だった。私は驚いて手を引っ込めた。自動販売機は、無機質な金属の塊のはずだ。それが笑うなんて、ありえない。
自動販売機をよく見てみた。特に変わった様子はない。ただ、ディスプレイの表示が少しおかしい。通常は商品名と値段が表示されているはずだが、そこには意味不明な記号が羅列されていた。まるで、古代文字のようだった。
「これは…故障かな?」
そう思い、店員を呼ぼうと店内を見た。しかし、さっきまでレジにいた男の姿が見当たらない。奥の部屋にでも行ったのだろうか。私は仕方なく、もう一度自動販売機に向き直った。
すると、自動販売機の笑い声がさらに大きくなった。今度は、笑い声だけでなく、奇妙な音も混ざっている。それは、まるで金属が軋むような、悲鳴のような音だった。私は恐怖を感じ、一歩後ずさった。
自動販売機は、明らかに異常だった。私は、その場から逃げ出すべきだと直感した。
私は、コンビニから走り出した。背後からは、自動販売機の笑い声と奇妙な音が追いかけてくるようだった。私は、必死に走り続けた。街灯の下を駆け抜け、人気のない路地を抜け、ようやく自宅にたどり着いた。
部屋に飛び込むと、私は鍵をかけ、カーテンを閉めた。心臓がドキドキと音を立てている。私は、ソファーに倒れ込み、息を整えた。自動販売機の笑い声は、まだ耳に残っているようだった。
「一体、何だったんだ…」
私は、あの自動販売機のことを考えると、ゾッとした。あれは、ただの機械ではない。何か、得体の知れないものが憑りついているに違いない。私は、もう二度とあのコンビニには行かないと心に決めた。
翌日、私は会社で同僚に昨夜の出来事を話した。同僚は、私の話を笑い飛ばした。
「お前、疲れてるんじゃないか?自動販売機が笑うなんて、ありえないだろ」
私は、同僚の反応に少し腹が立った。しかし、同時に、自分の体験が現実だったのかどうか、自信がなくなってきた。もしかしたら、本当に疲れていたのかもしれない。
その日の帰り道、私は、別のコンビニに立ち寄った。目的は、もちろん炭酸ジュースだ。店内は明るく、客も何人かいた。私は、自動販売機の前で立ち止まり、目的のジュースを探した。すると、一番下の段に、昨日見たのと同じジュースがあった。
私は、少し躊躇したが、勇気を出してボタンを押した。すると、ジュースが落ちてくる音とともに、自動販売機が小さく笑った気がした。私は、ジュースを手に取り、急いでコンビニを後にした。
自宅に戻り、ジュースを冷蔵庫に入れた。そして、ふと、ジュースのラベルに目をやった。そこには、今まで見たことのない文字が書かれていた。それは、昨夜、自動販売機のディスプレイに表示されていた記号とそっくりだった。
私は、ジュースをゴミ箱に投げ捨てた。そして、あのコンビニの自動販売機は、今もどこかで笑っているのだろう、と思った。
(了)