最近、妙な鏡を買ってしまった。アンティークショップの隅っこで埃をかぶっていた、古びた手鏡だ。フレームには精巧な彫刻が施され、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。値段も手頃だったので、つい衝動買いしてしまったのだ。
その夜、鏡を磨いていると、ふと自分の顔が映った。いつもと変わらない、平凡な顔だ。しかし、次の瞬間、鏡の中の自分がニヤリと笑った。ゾッとした。まさか、見間違いだろうか。もう一度、鏡を覗き込んだ。今度は何も起こらない。気のせいだったのかもしれない。
それからというもの、毎日鏡を見るのが怖くなった。朝、顔を洗う時、歯を磨く時、ふとした瞬間に鏡の中の自分が笑っているのではないかと、常に警戒していた。しかし、鏡はいつも静かで、何も起こらなかった。
数日後、私は友人とカフェで待ち合わせをしていた。少し時間があったので、手鏡を取り出して化粧直しをすることにした。鏡を覗き込むと、鏡の中の自分がまたニヤリと笑った。今度は見間違いではない。確かに笑っている。私は恐怖で体が震えた。
私は急いでカフェを飛び出し、アンティークショップへ向かった。あの鏡を売った店主に、鏡について尋ねることにしたのだ。店主は私の話を聞くと、少し驚いたような顔をした。「ああ、あの鏡ですか。あれは昔、ある貴族の館にあったものだと聞いています。曰く付きの品で、持ち主を不幸にするという噂がありました。」
私は店主の言葉に愕然とした。やはり、あの鏡には何かがあるのだ。私は店主に鏡を返品しようとしたが、店主は困った顔をした。「申し訳ありませんが、一度売ってしまったものは返品できません。それに、あの鏡はもう誰も欲しがらないでしょう。」
家に帰り、私は鏡を捨てることにした。しかし、どうしても捨てることができなかった。鏡の中の自分が笑っている気がして、怖くて近づけないのだ。結局、私は鏡を部屋の隅に置いたまま、眠りについた。
夜中、ふと目が覚めた。部屋は真っ暗だったが、鏡だけがぼんやりと光っていた。鏡を覗き込むと、鏡の中の自分が満面の笑みを浮かべていた。そして、鏡の中の自分は、ゆっくりとこちらに手を伸ばしてきたのだ。私は悲鳴を上げようとしたが、声が出なかった。
次の朝、私はベッドの上で目を覚ました。夢だったのだろうか。しかし、部屋の隅にある鏡は、いつもと変わらず、静かに光を反射していた。私は恐る恐る鏡に近づき、自分の顔を映してみた。鏡の中の自分は、微笑んでいた。そして、その微笑みは、私のものではなかった。私は気がついた。鏡の中の自分が、私と入れ替わっているのだ。そして、鏡の中の私は、今まさにこの文章を書いている。ああ、なんてことだ。