「異世界不動産、事故物件付き」
鈴木は、どこにでもいる、平凡なサラリーマンだった。毎日満員電車に揺られ、上司の小言に耐え、帰宅後はコンビニ弁当を食べるだけの、面白みのない日々を送っていた。そんなある日、彼はインターネットで見慣れない広告を目にした。「異世界不動産、格安物件多数！」
半信半疑ながらも、鈴木は広告をクリックした。すると、画面は突然真っ暗になり、次の瞬間、彼は見知らぬ場所に立っていた。目の前には、古びた看板が立っている。「異世界不動産・ヨグ＝ソトース支店」
建物に入ると、奥からぬらりとした男が出てきた。顔はひからびたタコのようで、目は虚ろだ。「ようこそ、異世界不動産へ。私はヨグ＝ソトース。ここでは、貴方の求める物件が必ず見つかります」
鈴木は圧倒されながらも、事情を説明した。現状の生活に飽き飽きしていること、もっと刺激的な生活を求めていること、そして、なるべく安い物件を探していることを。
ヨグ＝ソトースはニヤリと笑った。「なるほど。それならば、まさに貴方にぴったりの物件がありますよ。少しばかり、訳ありですが…」
ヨグ＝ソトースが案内したのは、古びた洋館だった。外壁は蔦に覆われ、窓ガラスは割れている。一目見ただけで、ただならぬ雰囲気が漂っていた。「この物件は、元々ある貴族が住んでいた屋敷です。しかし、住人が次々と奇妙な死を遂げ、今では誰も寄り付かなくなってしまったのです」
鈴木は恐る恐る洋館の中に入った。埃っぽい匂いが鼻をつき、床は軋む。壁には不気味な肖像画が飾られ、天井からはシャンデリアがぶら下がっている。その様子は、まさにホラー映画に出てくる幽霊屋敷そのものだった。
「この部屋は、主寝室です。かつて、この屋敷の主人が、ここで首を吊って亡くなりました。それ以来、夜な夜な主人の幽霊が現れると言われています」ヨグ＝ソトースは淡々と説明した。
鈴木は背筋がゾッとした。しかし、同時に、好奇心も湧き上がってきた。幽霊屋敷に住むなんて、平凡な日常とはかけ離れた、刺激的な体験ではないか。「一体、いくらですか？」彼は尋ねた。
「破格の値段です。なんと、月々一万円！ただし、幽霊との同居が条件となります」ヨグ＝ソトースは不気味な笑みを浮かべた。
鈴木は迷った。幽霊との同居は怖い。しかし、月々一万円という破格の値段は魅力的だった。それに、彼は平凡な日常から抜け出したかったのだ。結局、彼は契約書にサインした。「よろしくお願いします」
契約後、鈴木は早速洋館に引っ越した。初日の夜、彼は緊張しながら眠りについた。しかし、何も起こらなかった。静かな夜だった。
次の日も、その次の日も、何も起こらなかった。鈴木は拍子抜けした。幽霊なんて嘘だったのか？彼はそう思い始めた。
しかし、一週間が過ぎた頃、異変が起きた。夜中に、どこからともなくすすり泣く声が聞こえてきたのだ。恐る恐る声のする方へ向かうと、主寝室のドアが僅かに開いていた。
ドアを静かに開けると、そこには青白い光を放つ男が立っていた。首には縄の跡がくっきりと残り、目は虚ろだった。それは、この屋敷の主人の幽霊だった。
幽霊はすすり泣きながら、鈴木に訴えかけた。「助けてくれ…私は、殺されたんだ…」
鈴木は恐怖に震えながらも、幽霊に話を聞いた。話によると、この屋敷の主人は、使用人に毒殺されたらしい。しかし、証拠がないため、自殺として処理されてしまったのだ。
幽霊は鈴木に、真実を明らかにしてほしいと懇願した。「私の無念を晴らしてくれ…そうすれば、私は成仏できる…」
鈴木は困惑した。彼はただのサラリーマンだ。殺人事件の真相を暴くなんて、できるのだろうか？しかし、幽霊の悲痛な訴えを聞いているうちに、彼は決意した。「分かりました。僕にできることがあれば、協力します」
それから、鈴木は幽霊と共に、事件の真相を調べることにした。幽霊は生前の記憶を頼りに、事件に関わった人物や場所を教えた。鈴木はインターネットや図書館で調べ物をしたり、関係者に話を聞いたりした。
調査の結果、鈴木は事件の真相に近づいていった。そして、ついに、決定的な証拠を発見した。それは、屋敷の使用人が書いた日記だった。日記には、主人の毒殺計画が詳細に記されていた。
鈴木は日記を警察に提出した。警察は捜査を開始し、事件は再捜査されることになった。そして、数日後、屋敷の使用人は逮捕された。長年の時を経て、事件の真相が明らかになったのだ。
幽霊は鈴木に感謝した。「ありがとう…君のおかげで、私はようやく成仏できる…」幽霊は微笑みながら、光となって消えていった。
鈴木は、幽霊屋敷に一人残された。しかし、彼はもう怖くなかった。むしろ、達成感で満たされていた。彼は平凡なサラリーマンから、殺人事件の真相を暴くヒーローになったのだ。
その後、鈴木は異世界不動産を辞め、探偵事務所を開業した。そして、数々の難事件を解決し、名探偵として名を馳せることになった。異世界不動産での経験は、彼の人生を大きく変えたのだ。
