自販機は夢を見るだろうか?
そんなことを考えたのは、深夜の工事現場で缶コーヒーを買ったときだった。人気のない場所にポツンと佇む自販機。蛍光灯は古びていて、時折チカチカと明滅する。まるでまばたきをしているようだった。
僕は一番安いコーヒーを選び、コインを投入した。ガチャンという音とともに、冷たい缶が落ちてくる。取り出し口に手を突っ込むと、その缶が、かすかに震えているのがわかった。
「気のせいか…」
そう思ったが、缶コーヒーを飲みながら、どうしてもその震えが気になった。まるで生きているみたいだ。
次の日も、僕は同じ自販機でコーヒーを買った。そして、また同じように缶が震えていた。今度は、昨日よりもはっきりと感じられた。まるで何かを訴えているようだ。
「一体、何なんだ…?」
僕は缶を耳に当ててみた。すると、かすかに、何か囁くような音が聞こえた。最初は雑音かと思ったが、注意深く聞いてみると、それは確かに人間の声だった。
「助けて…」
小さく、か細い声。僕はゾッとした。この缶コーヒーは、一体何なのだろうか?
その日から、僕は毎日、その自販機に通った。そして、毎回、缶コーヒーは震え、囁き続けた。「助けて…助けて…」
僕は、その声の主を探すことにした。自販機を管理している会社に問い合わせてみたが、「そんな話は聞いたことがない」と一蹴された。警察にも相談したが、「いたずら電話だ」と相手にされなかった。
しかし、僕は諦めなかった。あの声は、確かに助けを求めている。僕は、何としても、その声の主を見つけ出さなければならない。</p
ある夜、僕は自販機の裏に隠れて、張り込みをすることにした。深夜、人気のない工事現場には、静寂だけが支配していた。時折、遠くを走る車の音が聞こえるだけだ。
午前3時頃、一台のトラックが工事現場に停車した。中から出てきたのは、作業着を着た男たち。彼らは、自販機に近づき、何か作業を始めた。僕は息を潜めて、様子を窺った。
男たちは、自販機の裏蓋を開け、中から何かを取り出した。それは、小さな、銀色の箱だった。箱の中には、何かが入っているようだった。僕は、男たちの会話に耳を澄ませた。
「これで、最後だ…」
「早く済ませて、逃げよう…」
男たちは、銀色の箱を自販機の中にセットし、裏蓋を閉めた。そして、トラックに乗り込み、走り去った。僕は、男たちが立ち去るのを待って、自販機に近づいた。
そして、コインを投入し、缶コーヒーを買った。缶は、いつものように震えていた。しかし、今回は、震え方が少し違っていた。まるで、感謝しているかのようだった。
僕は、缶を耳に当ててみた。すると、今度は、囁き声ではなく、はっきりとした声が聞こえた。
「ありがとう…助かった…」
僕は、缶コーヒーを飲み干した。その味は、いつもよりずっと甘く、そして、少しだけ苦かった。銀色の箱?そんなもの、どこにもなかった。
そして僕は思った。夢を見るのは、自販機だけじゃない。缶だって、夢を見るのかもしれない。