ピンポーン、と気の抜けたチャイムが鳴った。モニターを見ると、宅配便の配達員が立っている。いつもの無愛想な顔で、こちらをじっと見ている。
「はーい」と返事をしてドアを開けると、配達員は無言で荷物を差し出した。宛名を見ると、確かに私の名前が書かれている。差出人は空白だ。なんだろう、身に覚えがない。
「送り主はどちらですか?」と聞くと、配達員は首を横に振った。「配達のみ承っております」と事務的な声で答える。
仕方なくサインをして荷物を受け取った。ずっしりと重い。段ボールには何も書かれていない。不気味なほどに。
部屋に戻り、カッターで段ボールを開けた。中に入っていたのは、古びた木箱。表面には複雑な模様が彫られている。まるで、古代の遺跡から発掘された宝箱のようだ。
恐る恐る木箱を開けてみた。中に入っていたのは、一体の人形。陶器でできた、西洋人形だった。しかし、その顔はひどく歪んでおり、まるで苦悶の表情を浮かべているかのようだ。
人形の目は、生きた人間のようにこちらを見つめている。ゾッとした。すぐに箱を閉じた。
気持ち悪い。すぐにでも捨ててしまいたい。しかし、なぜこんなものが私のところに送られてきたのだろうか。
気を取り直して、人形をもう一度見てみることにした。今度は、注意深く観察する。人形の首には、細い金のネックレスがかけられている。よく見ると、小さな文字で何かが刻まれている。
ルーペで拡大してみると、それはラテン語だった。「Memento Mori」。死を忘れるな、という意味だ。
背筋がゾッとした。これはただの人形ではない。何か恐ろしいものが宿っているに違いない。
その夜、私は眠ることができなかった。人形のことが頭から離れない。あの歪んだ顔、生きたような目。夢の中でも、人形は私を苦しめた。
翌日、私は人形について調べることにした。インターネットで検索してみたが、それらしき人形は見つからない。図書館にも足を運んだが、手がかりは得られなかった。
途方に暮れていた時、一冊の古書が目に留まった。それは、呪術に関する書物だった。ページをめくっていると、人形の絵が載っているのを見つけた。
説明文を読むと、それは「魂喰い人形」と呼ばれ、人間の魂を吸い取る力を持つという。そして、その人形に呪われた者は、必ず不幸な死を迎えると書かれていた。
私は震え上がった。まさか、そんなものが自分の手元にあるなんて。
その日の夜、私は決意した。この人形を、絶対に手放さなければならない。しかし、どうすればいいのかわからない。
すると、突然、部屋の電気が消えた。あたりは真っ暗になった。そして、人形の置いてある方向から、奇妙な音が聞こえてきた。それは、老婆が咳き込むような、かすれた笑い声だった。
私は恐怖で身がすくんだ。動けない。ただ、人形の方向を見つめることしかできなかった。すると、人形がゆっくりと立ち上がった。そして、歪んだ顔で私に向かって歩いてきた。
私は絶叫した。しかし、声は出ない。人形は、ゆっくりと私の首に手をかけた。そして、私の魂を吸い取ろうとした。
次の瞬間、私は意識を失った。
気が付くと、私は自分のベッドに寝ていた。あたりは明るい。夢だったのだろうか。しかし、首には人形の手の跡が残っていた。
そして、私の部屋から、あの人形は消えていた。
代わりに、一枚のメモが残されていた。「お返しは、もっと恐ろしいものが届くでしょう」と書かれていた。