男は夢遊病だった。それも重症で、毎晩のようにどこかへ出歩き、翌朝には記憶がすっかりなくなっているという。最初は心配した妻も、慣れてしまえば「また始まったわ」とため息をつくだけになった。
ある日、男はふと思った。「夢遊病で歩き回っている時の自分を、見てみたい」。そこで、彼は小型のビデオカメラを買い、夢遊病が始まったら自動的に録画を開始するタイマーを設定した。カメラは彼の寝ている姿を捉え続け、夢遊病が発症した瞬間から、記録を開始するはずだった。
翌朝、男は期待と不安を胸にビデオを再生した。画面に映し出されたのは、眠る自分の姿。やがて深夜、男はゆっくりと体を起こし、まるで操り人形のように無表情で歩き始めた。男は自分の異様な姿に息を飲んだ。しかし、異変はそれだけではなかった。男が歩き出すと同時に、画面にノイズが走り始めたのだ。砂嵐のようなものが、映像を覆い隠そうとする。
男は目を凝らして画面を見た。ノイズの中から、ぼんやりと何かが浮かび上がってくる。それは人影だった。しかし、普通の人影ではない。手足が異常に長く、顔はまるで溶けた蝋人形のように歪んでいる。その人影は、夢遊病の男の背後を、ぴったりとついて歩いていた。そして、時折、男の耳元で何かを囁いているように見える。
男は恐怖で体が震えた。彼はすぐにビデオを停止した。もう二度と見たくなかった。彼はビデオカメラをゴミ箱に捨て、鍵をかけた。しかし、その夜、男は夢遊病で歩き出した。向かった先は、ゴミ捨て場。彼はカメラを拾い上げ、そして…カメラは、赤い目で、男をじっと見つめていた。