夜の帳が下りた頃、私はデパートの裏口から忍び込んだ。目的はただ一つ、夢遊病の友人が言い残した「深夜のデパートには秘密がある」という言葉を確かめることだった。
友人の名はタカシ。彼は幼い頃から夢遊病に悩まされていた。ある夜、彼は夢の中でデパートを徘徊し、奇妙な光景を目撃したという。マネキンが動き出し、商品が意思を持ち、そして何よりも恐ろしい存在がデパートの奥深くに潜んでいると。
タカシは、その夢の話をするたびに顔色が悪くなっていった。そして数日後、彼は原因不明の病で亡くなった。私は彼の死の真相を突き止めるため、彼の夢に登場したデパートへ向かったのだ。
デパートの中は静まり返り、照明は消えていた。懐中電灯の光を頼りに、私は慎重に歩を進めた。エスカレーターは停止し、商品は整然と陳列されていた。しかし、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。
まず向かったのは、タカシが夢の中で最も恐ろしい存在を見たというデパートの奥にある倉庫だった。倉庫の扉は固く閉ざされていたが、幸いにも鍵はかかっていなかった。私は扉をゆっくりと開け、中へ入った。
倉庫の中は薄暗く、埃っぽい匂いが鼻をついた。奥には無数の段ボール箱が積み上げられ、何が入っているのか見当もつかなかった。私は段ボール箱の間を縫うように進み、奥へ向かった。
すると、奥の一角に奇妙な空間があることに気づいた。そこはまるで、デパートのフロアの一部を切り取ってきたかのような場所だった。服飾品、アクセサリー、化粧品などが所狭しと並べられ、まるで営業中のようだった。
近づいてよく見ると、陳列されている商品はどれも古めかしいものばかりだった。デザインは時代遅れで、色も褪せていた。まるで、昭和の時代のデパートにタイムスリップしたかのようだった。
その時、背後から何かの気配を感じた。振り返ると、そこには一体のマネキンが立っていた。マネキンはゆっくりとこちらを向き、不気味な笑みを浮かべた。
私は恐怖で身がすくんだ。マネキンはゆっくりと近づいてくる。私は思わず後ずさりし、逃げようとした。しかし、足がもつれて転んでしまった。
マネキンは私を見下ろし、さらに笑みを深めた。そして、マネキンの手が伸びてきた。私は覚悟を決めて目を閉じた。しかし、何も起こらなかった。
恐る恐る目を開けると、マネキンは消えていた。代わりに、目の前には古ぼけた鏡が置かれていた。鏡に映ったのは、見慣れた自分の姿だった。
私は鏡に手を触れた。すると、鏡面が波打ち、私の姿が歪んでいった。そして、鏡の中から別の自分が現れた。それは、夢遊病で亡くなったタカシの姿だった。
タカシは私に微笑みかけた。「ここが、深夜のデパートの秘密だよ」と彼は言った。「ここは、夢遊病者の魂が集まる場所なんだ。そして、マネキンは僕らの案内人なんだ」
私はタカシの言葉に衝撃を受けた。そして、自分が今、夢の中にいることに気づいた。深夜のデパートは、夢と現実の狭間に存在する異次元空間だったのだ。私はタカシと共に、夢の世界へと消えていった。