ある男が、骨董品店で古びた鏡を見つけた。フレームには笑みを浮かべた悪魔のような彫刻が施されている。男は、その奇妙さに惹かれ、衝動的に購入した。家に持ち帰り、自室の壁に掛けると、たちまち部屋の雰囲気が変わったように感じた。冷たい空気が漂い、背筋がゾッとした。
その日から、男は毎日鏡を眺めるようになった。最初は気のせいだと思っていたが、鏡に映る自分の顔が、少しずつ歪んでいくことに気づいた。笑っているような、泣いているような、奇妙な表情を浮かべている。男は恐怖を感じ、鏡を覆い隠したが、それでも歪んだ顔は男の脳裏に焼き付いて離れなかった。
ある夜、男は眠りについた。夢の中で、鏡の中の自分が笑いながら語りかけてきた。「お前は、本当の自分を見ていない。鏡の中の私が、本当のお前だ」と。男は飛び起きた。部屋は暗く、鏡は静かに壁に掛かっていた。だが、男は確信した。鏡の中には、何か恐ろしいものが潜んでいる。
男は友人の写真家を呼び、鏡の写真を撮ってもらうことにした。写真家は、最新のデジタルカメラで何枚も写真を撮影した。現像された写真を見た男は、愕然とした。どの写真にも、鏡の中の男の顔が、おぞましい形に歪んでいる。中には、人間のものではない、異形のものが写っている写真もあった。
男は決意した。この鏡を処分しなければならない。だが、鏡はまるで生きているかのように抵抗した。男が鏡を動かそうとするたびに、部屋に不気味な音が響き、冷たい風が吹き荒れた。それでも男は、何とか鏡を骨董品店に持ち込んだ。店主は、鏡を見るなり顔色を変え、「これは危険なものだ。二度と持ち込まないでくれ」と言った。男は鏡を店の前に置き、逃げるように立ち去った。その後、その骨董品店は原因不明の火災に見舞われたという。